フィリッポス2世の内政改革

<軍事とのバランスを取りつつの改革>
前回も書いた通り、このフィリッポス2世という人はめちゃくちゃ有能で、特に軍事面での改革は有名。当時のギリシア地域最強の軍団を作り上げました。彼の作り上げたマケドニア式のファランクスによる戦術は、その後の戦術に大きな影響を与えます。
その資産を受け継いで、息子であるアレクサンドロスが東方大遠征で無双する訳なのですが、アレクサンドロスの大活躍にはこのフィリッポス2世の遺産は不可欠だったと言えます。地域の他の勢力より抜きんでて、力をつけていくまでにはどうしても時間がかかります。織田信長の勢力の急成長の土台に、父である織田信秀による勢力拡大、そのまた父である織田信定が津島の商業利権を押さえて経済的な基盤を確立していたことがあったように、急激なスピードで事をやってのけるためには、そのお膳立てをしてくれる人が必要です。アレクサンドロスにとってはそれが父であるフィリッポス2世にあたりました。
軍事面の活躍って非常に目立ちますし、印象に残りやすいのですが、彼が実力を発揮したのは軍事の面だけではありませんでした。軍事力を支えるための強力な土台、マケドニアという国を組織してより豊かな国にするために内政にも力を発揮します。この時代の歴史シミュレーションゲームなんかを作ったとすると、武力だけではなく知力も内政もトップクラスになるような人物です。
まずは国を富ませて、民を豊かにする。そういった基本的なことをしっかりやっている。それはみんな分かっていたことかも知れませんが、豊かになれば豊になったで、周辺の国々が黙っていません。いっぱいあるなら俺たちがそれを奪ってしまえという分かりやすい理論で、それを奪おうとする輩も現れます。
周囲の国々の人達も農業をやったり牧畜をやったりと何かしら生産活動をやっていますが、作るより奪った方が良いと考える人たち相手に、時にはお金、時には政略結婚などなどうまいこと外交をやって、一度に全員と戦争にならないようにコントロールします。
仲良くするべきときは仲良くやる。必要なタイミングでは軍事力も使う。ただし軍事力を使うときは勝てる状況を作った上でというのが基本方針。
フィリッポス2世は、どのタイミングでどのカードを切れば一番効果があるのかを見極め、手持ちのカードを絶妙なタイミングで切っていきます。自分の持つ資産の力からいかにして最大限の力を引き出すかを考えられる人だったようです。

<マケドニアを大きくする>
内政面でやったことの一例ですが、戦争と外交によって着々と広げた領土に支配下の人々を強制移住させて農地を開墾させています。今、やってしまうと完全な人権侵害ですね。相手の意思に反して無理やり引っ越しさせて、無理やりにその人の仕事を決めてしまう訳ですから。今でも突然に辞令が出て、来週から転勤な!!みたいなこともあるので、昔も今も見ようによっては変わらんと言えば変わりませんが。無理やりではありますが、開墾した土地を彼らに分け与えることによって、新たな農地が生まれるのと合わせて、新たにマケドニア人が生まれていきました。
これがギリシアの都市国家による領土の拡張であれば、戦争の結果征服した土地の住民は自分たちの奴隷にされてしまうか、国が残ったとしても、周辺の弱小国として服従するしか道はありません。領土が拡がったところでギリシアの市民自体が増える訳ではありませんでした。自国を急激に成長させるということにかけては、ギリシアの政治体制は不向きだったと言えるでしょう。まぁ、元々ギリシア市民としては自分たちの国を世界の大国にしたいというような欲望はなかったかも知れませんが。
奴隷も持たず、支配地域の住民も自国に組み入れていくことが可能なマケドニアでは、領土を増やしていく過程で新たにマケドニア人を増やしていくことが可能でした。
ただ、これはギリシアとマケドニアの「文化が違う」からであって、政治体制として奴隷制を取り入れているギリシアが悪くて、そうでないマケドニアが良いというような単純な話ではありません。ギリシアの諸都市のこれまでの繁栄を支えたものの一つが奴隷制であったことは間違いないでしょう。
マケドニアがやったように、急激に自分の支配地域を拡げていく場合には自分たちの同朋とそれ以外を完全に分けて考える奴隷制は向いていなかったのかも知れません。制度上の向き、不向きの問題です。
人民だけではなく、元々はマケドニアではなかった地域の有力者を取り込み、マケドニアの家臣団として受け入れることでマケドニアは家臣団も増やしていきます。領土が大きくなると、どうしても元々いた人材だけでは足りなくなってきます。その点については支配地域から新しい血を入れていくことで補っていきます。マケドニアの将軍として東方遠征に参加した将軍の中には、そのようにして後からマケドニア貴族になった人たちが多く含まれます。

<鉱山開発とか都市の開発とか>
他にもバンガイオンという金鉱を開発させて貨幣を作ったり、各地に新しく都市を作ったりしています。
パンガイオンには古くから知られた金の鉱山があって、フィリッポスはそこに軍を送り込んで自分の勢力下に組み入れます。そしてそこを奪われないように軍事拠点として「フィリッポイ」という都市を建設しています。フィリッポイの名前ははもちろんフィリッポスから取ったものですが、西洋では町に自分の名前をつけちゃうパターンが結構多いですね。そのセンスよくわかりません。息子のアレクサンドロスも、世界各地にアレクサンドリアを作ってしまいます。あげくの果てには自分の愛馬の名前を町に付けたり。。。
町のネーミングセンスはさておき、鉱山開発したり都市の商業利権を押さえたりは戦国時代の武将もよくやっています。毛利家の石見銀山しかり、武田家の黒川金山しかり、織田家は津島の港の商業利権を押さえていました。
やはり戦争だけではなく、内政で国を富ませることは強い国造りには不可欠です。逆に国を富ませることができたからこそ勝ち残れたと言えるかも知れません。

<うまいこと外交もやっている>
少し話がそれましたが、フィリッポスは鉱山や新たに建設した都市から得た利益を使って外国に支持者を増やしたり、さまざまな改革をするための資金を得ます。
外交面で言うと、お金を使って国内外に支持者を作ることをやっていたのですが、それだけではなく血縁関係も使って政略結婚というやり方で同盟関係を強化したりしています。
単に戦争に勝って相手を支配下に置くだけでなく、お金も血縁も使って周辺諸国を自分の味方に引き入れました。いくら強くでも周り全員と同時にケンカする訳にもいかないので、うまく協力できるときは協力しています。
マケドニアは一夫多妻制だったのですが、フィリッポスの7名の奥さんのうち6名までは周辺国との政略結婚です。アレクサンドロスの母親であるオリュンピアスもモロッソイ大国というお隣の国のお姫様でした。
ただ、フィリッポスはただの女好きだった訳ではありません。もちろん、女好きだった可能性も否定はできませんが、フィリッポスは当時の文化に漏れず男好きでもありました。両方いけるタイプの人で、古代ギリシアでも、その文化を受け継いだ古代ローマでも当時は一般的なことでした。
日本でも戦国武将と小姓の関係など、同じようなネタは色々なところに転がっています。今でいうところのBLですね。
こんなところも今とは「文化が違う」のでした。
ただ、ヒストリエでどう描かれるかはさておき、フィリッポス2世の死の原因となったのは、男色関係の痴情のもつれによるものという説が有力のようです。そのあたりの経緯について分かっている範囲でも、結構ドロドロしていて面白いのですが、ヒストリエではそのような展開にはならない模様。詳しいお話についてもどこかでご紹介するかも知れません。

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