逃げろ!!トラクス!!

<運命を変える大事件>
良家のお坊ちゃまとして、大好きな本を読み、色んな空想にふける恵まれた日々。それらすべてをぶち壊す原因になったのがスキタイ人奴隷の「トラクス」が起こした大事件です。
間接的にとはいえ、彼の行動がきっかけとなって、エウメネスのお坊ちゃま生活は終わりを告げることになります。
何不自由ないええとこの子供から奴隷への華麗な転身です。

<トラクス事件の大いなる疑問>
ただ、このエウメネスの運命を変えた大事件。これに私は大きな疑問を持っています。
これって、やりようによっては上手く逃げられたんじゃないのか?トラクスの行動は目的にそって正しかったのか?そもそもトラクスの目的は何だったのだ?残酷な主人から逃げて自由を取り戻すことが目的ではなかったのか?
ここで、事件の背景とトラクスの行動について検証してみたいと思います。

この後に見せる凄まじい剣技、奴隷なのに馬に乗れること、皮をはぐのがめちゃくちゃ上手なことなど、その後の数々の行動もあわせて見る限り、成人もしくはそれに近い年齢になるまではスキタイ人としての生活を送り、その後に戦争で捕虜になるなどの理由で奴隷にされたのだと思われます。
高利貸しのテオゲイトンという男に買われたトラクス。こいつがめちゃくちゃ感じの悪い男で、イジメというかひどい虐待をする奴でした。
奴隷が人ではなく言葉を喋る家畜という扱いだった当時、運悪く残酷な主人に買われた奴隷の中にはこのような扱いを受けた者もいたのでしょう。
現代日本の社畜なんて全然かわいいもんです。
すぐあとに、自分ところの奴隷をみんな去勢してしまうような変態主人も後に物語に登場するくらいです。奴隷になること自体もうれしいことではありませんが、奴隷になってしまったらしまったで、どんな奴に買われるかで、その人の運命は大きく左右されます。

そんな虐待の日々を耐え続けて、やがて少しだけ鎖を長くしてもらい、その後やっとのことで鎖をはずしてもらったトラクス。ここから自由を獲得するために日々ふつふつと溜まっていた感情を行動にうつすのですが、その行動の中でいくつかの致命的なエラーをやってしまっています。
では、トラクスの目的が逃走&自由を獲得して、スキタイ人の住む故郷に帰ることにあったと仮定して、その行動について振り返ってみましょう。

(1)テオゲイトンのところの使用人(おそらく奴隷を含む)を皆殺し
これはある意味仕方ない。他に選択肢はない。
現代では許されることではありませんが、これはある意味仕方なかったと言えるでしょう。殺された者の中には自分と同じ奴隷がいたかも知れませんが、一人でも生き残して、事が外部に漏れたら一大事です。
残酷な気もしますが、逃げるためにはこうするしかなかったと思います。

(2)主人であるテオゲイトンを殺害
これはもう仕方ないというか、相手は戦闘民族スキタイ人。
名誉あるスキタイ人にあんなことしたら復讐されますよね。狩りで獲物がとれなかったことを侮辱したくらいで、子供を食材にしてしまうくらいですから。相手が悪いです。
人の命の価値が今とは「文化がちがーうう」なので無罪。
さらに、相当に虐待されていた様子なのでそりゃこうなりますね。

(3)テオゲイトンの顔(あたまの皮ごと)の皮をはぐ
これはいただけない。致命的なエラーと言っても良いでしょう。
こんなことしている場合ではない。ただ、気持ちは分かります。あのままだと下手したら自分が殺されていたかも知れませんし。
それでも、やっぱりここで丁寧に皮をはいでいる場合ではない。両耳もきれいに。目のあともきれいにはいでいる。顔だけではなく頭皮まで。
これでどれだけの時間をロスしたのだろうか?
これだけ時間をロスしておいて「さあ。。。帰ろう。。。!」ではないのです。

(4)馬を盗む
これ自体は正解。ただし時間をかけ過ぎてはいけなかった。
ここで最優先すべきは一刻も早く町から出ること。時間がかかるくらいならば、まずは町から抜け出して、外を移動中の商人あたりから馬を奪うという選択肢もあったはず。
息子を殺したテオゲイトンの父から、トラクスを捕らえるのに力を貸して欲しいと依頼された際のヒエロニュモスのセリフに「それが今朝という事であればもう市内にはいないのでは?」とあるように、馬を盗もうなどと考えずにとりあえず町から出ることを優先していたのであれば、その時点で町を脱出してしまっていることはさほど難しいことではなかったように思えます。
町に閉じ込められてしまうと最終的に「死」しか待っていません。
もちろん、トラクスが自由の身になるには、この後に故郷であるスキタイの居住地まで移動することを考えるのであれば、馬を奪った上でカルディアの町を出るというのがベストの選択なのは事実です。
それでも馬にこだわり過ぎてはマズイ。マズ過ぎる。どこかで見切りをつけて、まずは町の外に出ることに方針を転換してもらいたかったところです。
時間のロスがなければ門が閉まる前に町の外に出ることができた可能性は高い。まだ手足の鎖が短かった頃に、トラクスが馬の世話をしているシーンがあるので、テオゲイトンの屋敷にも少なくとも1頭は馬がいたと思われます。
ひょっとしたら馬の選り好みをしていたのか???
なんにしても、馬についてはとっとと諦めてほしかったところです。

(5)着替える
致命的でないにしてもまずい行動。時間のロス。
その後のシーンを見る限り、おそらく自分用の服を着て逃げたのだと思われる。
だれかがトラクスが自由の身だった頃の服や剣を丁寧に保管してくれていたのだろうか。。。
さすがに裸で逃げる訳にもいかないけれど、できればギリシア風の服を誰かから奪って逃げたかった。あの格好で逃げたら「ここにスキタイ人がいまーす!!」と言っているようなものですからね。ギリシア人に変装するとかいうアイデアに思い至ってほしかった。

<まとめ>
馬を奪ってカルディアの町から脱出し、そこから東へ逃げることができれば故郷に帰れたかも知れない。
たとえカルディアの町から追手がやってきたとしても、ヒストリエの登場人物中トップクラスの剣士である彼であれば逃げ切れた可能性も十分あったと思います。馬なら追手から奪えたかも知れませんし。
元々の目的が自由になることよりも恨みを晴らすことだったのか、それとも沸々と湧き上がる怒りに感情が抑えられずに突発的に犯行に及んだのか。。。
時間をロスし、町から脱出するチャンスを逃した結果、志半ばで息絶えたトラクス。残念でなりません。

間接的にではありますが、こうしてエウメネスのお坊ちゃま生活は終わりを告げるのでした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました